4.下肢静脈瘤の治療方法
静脈瘤のタイプ・患者さんの状態によって異なる治療法。
下肢静脈瘤の治療には、大きく分けて “保存的治療”、“硬化療法”、“外科手術”、“血管内治療”の4つがあります。それぞれの治療にはメリットと注意点がありますので、静脈瘤のタイプや患者さんの状態によって適切な治療を選択する必要があります。
- ■保存的治療は、生活習慣の改善や弾性ストッキングなどで症状を改善したり、進行を予防する治療です。
- ■硬化療法は、静脈瘤に薬を注射して固めてしまう治療です。
- ■ストリッピング手術は、静脈を切除し、引き抜く方法です。
- ■血管内治療は、低侵襲治療[※1]で、高周波(ラジオ波)またはレーザーを使用する血管内焼灼術と、接着材(グルー)を使用するグルー治療があり、日帰りで治療することができます[※2]。
※1「低侵襲治療」とは?
手術・検査などに伴う痛み、発熱・出血などをできるだけ少なくする治療。
内視鏡やカテーテルなど、身体に対する侵襲度が低い医療機器を用いた診断・治療のことで、患者の負担が少なく、回復も早いと言われています。
※2 医師の診断によります。
下肢静脈瘤のおもな治療法
治療法 |
保険適用 |
治療に適した静脈瘤のタイプ |
保存的治療 |
△
(弾性ストッキングの購入費は原則自己負担) |
軽症例・手術後の再発防止 |
硬化療法 |
○ |
くもの巣状・網目状・側枝型 |
ストリッピング手術 |
○ |
伏在型 |
血管内治療(高周波・レーザー) |
○ |
伏在型 |
グルー治療 |
○ |
伏在型 |
メスや針を用いない「保存的治療」
症状の改善や緩和を目指す、メスや針を使用しない治療法を保存的治療と呼びます。下肢静脈瘤の保存的治療は、生活習慣を改善したり、医療用の弾性ストッキングを着用し、ふくらはぎの筋ポンプ作用をおぎなうことで、症状をやわらげたり進行を予防します。根本的な治療ではなく、あくまでも症状の緩和や進行防止を目的としたもので、下肢静脈瘤そのものが治るわけではありません。
運動・マッサージなどによる生活習慣の改善
下肢静脈瘤は、静脈弁が壊れて血液が重力に逆らって心臓にうまく戻らなくなる病気です。したがって、長い時間立っていると症状が強くなり、病気が進行しやすくなります。1ヶ所に長時間じっと立っているのは避け、できるだけ歩き回ったり、1時間に1回程度は休憩をとるようにしましょう。パソコンなどの作業で、椅子に長時間座ったままもよくありませんので、足首の運動をしたり、足台で足を高くするようにしましょう。お風呂で足のマッサージをしたり、就寝時に足を高くするのも効果的です。
足のむくみを改善する運動・マッサージ(足の静脈の血管を促す)
弾性ストッキングの着用
弾性ストッキングは、足を締めつけて、ふくらはぎの筋ポンプ作用を助けることによって静脈還流をうながし、足に血液がたまるのを防ぎます。足を締めつけると逆に悪くなると心配される方もいらっしゃるようですが、弾性ストッキングは足首から段階的に圧力が弱くなっており、心臓にむかって血液が流れるように考えられて設計されています。コンビニエンスストアやドラッグストアなどで、むくみ予防用に売られている市販の着圧ストッキングと医療機関で処方される医療用の弾性ストッキングがあります。市販品も医療用も基本的に構造は同じですが、医療用は圧迫する圧力が強く着用に注意が必要なため医療機関でしか購入できません。長さによってハイソックス、ストッキング、パンティーストッキングなどの種類があります。
弾性ストッキングの種類
弾性ストッキング・コンダクターによる指導
弾性ストッキングは正しく着用すれば、下肢静脈瘤の治療にたいへん役に立ちます。しかし、履くのが難しかったり、かぶれなどのトラブルをおこすことがあり、長く履き続けることが難しいものでもあります。このような問題を解決するために日本静脈学会では「弾性ストッキング・コンダクター」という資格を設けています。弾性ストッキング・コンダクターは、弾性ストッキングのソムリエともいえる資格で、医師の指示のもとストッキングの種類・サイズの判断、着用時の指導、着用後の不満・問題点の相談を受けて適切な指導を行います。
■2020年4月から、難治性潰瘍に対する圧迫治療が保険適用になりました
対象となる症状など詳しくは医師にご相談ください。
静脈に薬を注射して固める「硬化療法」
硬化療法は、下肢の静脈瘤に硬化剤と呼ばれる薬を注射して固める治療です。固めた血管が硬くなることから硬化療法と呼ばれています。硬化剤を注射した後、弾性ストッキングや弾性包帯で圧迫し、静脈をつぶして固めます。皮膚を切らないため、日帰りで10分程度で行うことができます。
しかし、太い血管の治療には向いておらず、進行した静脈瘤には治療効果が期待できないケースがあるため、軽度の静脈瘤や血管内治療の補助的治療としてよく用いられます。また、薬剤によるアレルギーや色素沈着がおこることがあります。
血管をしばる「高位結紮術」、引き抜く「ストリッピング手術」
下肢静脈瘤の外科手術には、血管をしばる「高位結紮術(こういけっさつじゅつ)」と、血管を引き抜く「ストリッピング手術」があります。
高位結紮術は足のつけ根で血管をしばって、血液の逆流を食い止める手術ですが、新しい治療法の開発にともない、現在では実施件数は少なくなっています。
ストリッピング手術は、足のつけ根と膝の内側の2ヶ所を1~3cmほど切って、静脈の中に細い針金(ワイヤー)を入れてワイヤーごと静脈を抜き去る方法です。全身麻酔や腰椎麻酔で行われるため入院が必要でしたが、最近は日帰りでできる医療施設もあります。病気のある血管を全て取り除いてしまうため、高い治療効果が期待できます。
しかし、傷口が広く体への負担が大きいため、回復までに時間がかかったり、手術後の「痛み」や「出血」などのリスクがあります。また、血管を引き抜く際に周囲にある神経を傷つけてしまうことがあり、まれに神経障害と呼ばれるしびれが起こることがあります。
血管を内側から焼いたり、ふさいだりする血管内治療
血管内治療は血管内にカテーテルという細い管を入れ、内側から血管を焼いたり、ふさいだりする治療法のことで、血管内焼灼術とグルー治療の2種類があります。現在日本で最も広く行われている治療法です。
血管を内側から焼いてふさぐ「血管内焼灼術」
血管内焼灼術は、カテーテルという細い管を使って中から静脈を焼いてふさぐ治療です。高周波を使う方法と、レーザーを使う方法の2種類がありますが、どちらも治療効果に差はありません。
血液が逆流している静脈に細い針を刺して、その針穴から静脈の中に高周波やレーザーが出るカテーテルを入れ、内側から熱を加えて焼灼します。皮膚を切らないため、静脈を引き抜く従来のストリッピング手術に比べて傷口が小さく、多くの場合日帰り手術が可能です[※2]。
再発率も低い治療法ですが、熱を使用するため、やけどや神経障害などのリスクがあります。このような合併症の予防や治療中の痛みを和らげるため、複数ヶ所に針を刺し、麻酔液を治療する静脈に沿って全体にたくさん注入します。術後には弾性ストッキングを着用しますので少し動きにくさがあるかも知れませんが、すぐに歩くことができます。重労働や長時間の立ち仕事、スポーツなどは1~2週間後から可能です[※2]。
※2 医師の診断によります。
医療用接着材(グルー)で血管をふさぐ「グルー治療」
グルー治療は、下肢静脈専用に開発された医療用接着材「グルー」を、カテーテルを使って治療する静脈内に注入して静脈をふさぎます。熱によって静脈をふさぐ血管内焼灼術と違い、熱を使わないグルー治療は、やけどや神経障害がないのが大きな特長です。
また、血管内焼灼術では、静脈を焼くときの痛みを防ぐために治療する血管に沿って全体に麻酔を注射する必要がありましたが、グルー治療ではこの麻酔が必要ないため、麻酔注入時の痛みがありません。ストリッピング手術や血管内焼灼術では必須となっている、術後の弾性ストッキングの着用や弾性包帯による圧迫は、通常必要ありません。医師の判断にもよりますが、軽い運動や車の運転も当日から可能で、他の治療方法に比べて、手術後の体への負担が少ない治療方法です。
ただし、血管をふさいだグルーは長期間血管内に残るため、グルーの成分にアレルギーをお持ちの方は治療を受けられない場合がありますので注意が必要です。
血管内治療後にできることの目安
|
血管内焼灼術 |
グルー治療 |
デスクワーク |
翌日から |
治療当日から |
シャワー |
2日後から |
治療当日から |
車の運転 |
翌日包帯がとれたら |
治療当日から |
自転車に乗る |
1週間後から |
治療当日から |
スポーツ |
1~2週間後から |
治療当日から |
弾性ストッキングの着用 |
1ヶ月後まで |
原則不要 |
下肢静脈瘤の症状や患者さんご自身の状態により異なる場合があります。
担当医師にご確認ください。
静脈を引き抜いたり、ふさいでしまっても大丈夫か心配になる方もいらっしゃるかと思いますが、足の静脈は一本ではありませんので、一部を取り除いても残りの静脈が機能を補うため問題ありません。病気になって悪さをしてしまっている静脈なので、取り除いてしまった方が血流は良くなります。
組み合わせ治療として併用される「スタブ・アバルジョン法」
下肢静脈瘤の治療には、患者さんの下肢静脈瘤の症状や進行状況に応じて様々な治療法を組み合わせることがあります。
前述の手術や血管内治療などの治療法は、逆流が起きてしまっている静脈を根本的に治療する方法ですが、治療した血管の周りにある静脈瘤(ボコボコした血管)は逆流が無くなってもすぐには消えません。時間が経つとほとんどの場合だんだん目立たなくなりますが、瘤が大きいまたは多いケースでは何ヵ所か皮膚を切って静脈瘤を切除することがあります。スタブ・アバルジョン法(Stab avulsion)といって、特殊な器具を使って非常に小さい傷(1〜3mm)だけで静脈瘤を切除する方法が多く選択されています。この方法だと傷が小さいため縫う必要がなく、傷痕が残りにくく痛みも少ないとされています。
スタブ・アバルジョン法は、ストリッピング手術や血管内治療を行ったあと、数か月様子を見ても静脈瘤が小さくならない場合や、静脈瘤からの再発が懸念される場合などに、必要に応じて実施されます。また、医師の判断によっては、ストリッピング手術や血管内治療を行う際に、あらかじめ同時に行われることもあります。
スタブ・アバルジョン法を同時に行うことのメリット、デメリット
- メリット
- 手術直後から血管のボコボコが目立たなくなる
- 大きな静脈瘤がある場合は、併用することで逆流再発のリスクが減ることがある
- 一度にすべての手術が完了する(再発時を除く)
- デメリット
- 複数ヶ所に傷を付けるため、小さな傷跡が残る(個人差があります)
- 内出血や神経損傷のリスクがある
- スタブ・アバルジョンを行わなくても、血管のボコボコは数か月で自然に消えていくことが多い
- グルー治療*の場合でも、術後に弾性ストッキングの着用が必須になる
* グルー治療では、通常術後の弾性ストッキングは不要